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zoom RSS 加藤克巳氏の逝去

<<   作成日時 : 2010/06/28 16:32   >>

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 今の私には人様のご逝去を悼む余裕などはない。だから、5月の中旬だったかに加藤克巳氏の死亡記事を読んだ時にも「あぁ」と思ったけれど、そのままにしておいた。
 6月20日に酒井佐忠氏の追悼文「革新的な短歌と人間愛」が掲載された時も、痛さにまみれそのままにしてしまった。
 でも、この高名な現代短歌協会理事長の優しさがいつまでも私の胸に残っていて、一言でよいからお話したく思った。勿論もう長いこと音信が絶えている。これまでだってほとんど加藤氏から突然私に電話をくれるだけであったのだから。
 そもそもが1986年、一緒に「趙樹理国際学術研討会」に参加した縁であった。加藤克巳氏と桂英澄氏は山西省と友好関係にある埼玉県の文化代表であった。したがって加藤氏のスピーチは埼玉県及び日本を代表するものと受け入れられた。きっと気苦労が多かったに違いない。加藤氏の話は、それなりに受け入れられ、オプションとして五台山を巡り大同石窟を見て帰国したのであるが、その間、副代表の桂英澄氏は一言も話さなかったので却って中国の人から「了不起liaobuqi(たいしたものだ)」と評価された。ついでに言うならば、桂氏は1918年生まれで2001年にお亡くなりになっている。太宰治から「おい、髭を剃れ」と言われた桂氏も私があったときはもう老大家であった。
 太原のシンポジューム会場で、私が何気なく加藤、桂各氏と3人で入り口に立っていた時、一台のタクシーがやってきて中から黄修己氏が降り立った。思わず私は駆け寄り、手を握って久しぶりの出会いに大喜びを示した。これを見ていた、加藤氏が帰国後、日中の喜ばしき出会いと称して散文に書いてくれた。私は大いに驚いた。黄先生とは偶然の出会いであったから大喜びをしたに過ぎない。でも、このように評価してくださる方もいるのかと今更のように思った。
 当時は、「済公qigong」という乞食坊主の活躍を歌った歌が大流行であった。「南無阿弥陀仏〜、南無阿弥陀仏〜。鞋児破、帽児破」と始まる歌は、あたかも日本の「しとしとぴっちゃん、しとぴっちゃん」と歌った「子連れ狼」(これは1972年のことだが)のように、いたるところから聞こえてきた。帰国後、加藤氏は突然の電話で「済公」とは何者で、どういう意味があるのかとしきりに尋ねてきた。私はその時代的な意味を十分に解明できず、面倒なので連環画の「済公」を1箱送って済ませてしまった。きっと諧謔的な生き方で世の貪官汚吏を風刺した、そのいささか拗ねた態度が時代に受けたのであろうが、加藤氏がどう受け取ったのかを私は知らない。
 五台山の夜、加藤氏と桂氏とは2人だけの部屋で夜を過ごしていた。私はそもそも賑やかな人出の多いところは苦手であるが、周りの賑やかさに向かいの部屋を覗いてみると、康濯(湖南省作家協会会長)を中心に「書」を書いたり、歌を歌ったりして騒いでいるのであった。夜は楽しくひと時を過ごすのが中国の習慣だ。ふと、加藤氏の部屋を叩いてみると、2人は神妙に閉じこもっていて、「さっき狼の唸り声を聞いた」と言う。「まさか」と思っていると、「ほら、また、聞こえるだろう?」と言った。私も真顔で耳を澄ますと、それは賓館を取り巻く垣根を伝わる風の音であった。僭越な感想を言えば、私はその時に2人の義務と責務とを感じた。
 そこで、私は甘えるように、実は血圧の薬を忘れてきてしまって困っていると言った。すると、加藤氏は自分の薬袋から、数日分の薬を取り出して私に分けてくれたのであった。薬なんぞは、人によって処方が異なるものだから、私はいささか恐れをなしたが、この好意を――私はこういう捨て身の好意には弱い。感謝とは違う「情」を感じる――受け入れてその後帰国するまで飲み続けた。
 大同から北京までの夜汽車のコンパートメントでは、顧譲(中国作家協会)氏と一緒であったので4人でいささかの話をした。やむなくこの私が通訳をしたので、3人は喜んでくれた。お茶を車掌が持ってきたとき、それは1つ5分だった。顧譲氏は「なんとけち臭い!」と言って我々のお金を受け取ろうとしなかったのだが、我々3人は無理やり顧譲氏に1毛5分を支払った。こうしないと日本人は気がすまないのであった。
 加藤氏は1915年に生まれて、シュールな感覚やモダニズムを取り入れた斬新な歌で頭角を現した。86年には「勲4等瑞宝章」を受け、91年から第三代の現代歌人協会理事長となり、96年には宮中歌会召人になるという、普段なら私なんかとはまるで違う世界の人である。通りすがりの行きがかりとはいえ、ホンの少し接触させていただいた。
 心安らかにお休み下さい。

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